右手と右足が同時に出てたんじゃないかしら・・・
自分が「あそこに座ろう。」と決めた椅子しか見えていなかったことだけは憶えているわ。
大阪商人の客あしらいは見事です。
「何する?」
「ビ、ビールで・・・。」
「初めてやんなぁ?」
「は、はい・・・。」と、間髪入れません。
「どんな人がタイプなん?」
はい!来ましたこの質問。これは、ゲイバーでは挨拶代わりです。タイプの男を紹介するのに、マスターはお客の好みを把握しなければならないしね。
ところが、答えに詰まります。だって、まだタイプなんて無いんだもん。
自分がゲイかどうかすら、はっきりしてないんだから・・・。
「ひょっとして、自分(大阪では二人称にも用いる)、ノンケなん?」
「は?」
当時“ノンケ”という言葉の意味すら知らなかったアタシに、周囲はどよめいたわ。
そこで、アタシは正直にこう言ったの。
「まだ自分がゲイかどうかが判らないんです。でも、女より男の裸の方が興奮します・・・。」とかなんとか。
そしたら、他のお客様を手で差して、優しくこう答えてくれたの。
みんな、初めはそうだったんや・・・。」
“この言葉を待っていた!”そう思ったわ。
見れば、お客様はどこにでもいそうな兄ちゃんとおっちゃんです。
女性的な人なんてそこにはいなかったの。普通のスーツ姿のサラリーマンがいるだけ。
徐々に打ち解け、お酒も回り、アタシは閉店までいたわ。
そして、マスターの部屋に誘われたの。
はい。食われちゃったんです、アタシ!
しかもね、生まれて初めてアナルに指を挿れられたもんだから、アンコントローラブルになっちゃって、何と顔面に屁をこいちゃったのよぉ~。
お陰でそのお店は一回こっきりになっちゃった。
ほろ苦いゲイバーデビューでしたの。